梅雨の中休み。
今日はお日様が顔を出していたから、いつもより早めに家を出る。
そして、必ず利用する駅通り越して、少し長めに歩くことにした。
「気持ちえぇなぁ」
「うん」
二人で。
彼は気分がいいのか、鼻歌鳴らしている。
その横顔をちらりと上目遣いに見上げ、その陽気そうな表情に思わず笑みがこぼれた。
ちょうど、土手に差し掛かった頃。
少し時期はずれの花が視界に入る。
首を傾げながら、その場を通り過ぎようとした。
「どないしたん」
「え、あ……」
彼が同じ様に首を傾げてこちらを見つめる。
だから自分の指先をその花へ向けた。
「いや、季節外れだなって」
「あの花か?」
「うん」
彼は指先辿って視線向け「へぇ~」と、呟く。
だからどうしたって感じに思えて、咄嗟に彼の背を押す。
「ほら、遅れるよ」
「そんな気分やったんやろな」
「へ?」
明るい声音の彼に向かって、思わずきょとんとして見上げてしまう。
「あの花にとって、今がちょうどえぇ時やったんやろ」
「え……と、そう、だね」
なんだか嬉しそうな横顔に、どう返したらいいかわからず戸惑う。
すると彼はこちらに向き直って、じっと見つめてくる。
ひょうひょうとした態度が通常の彼が、どこか真剣みを帯びた眼差しを向けている。
自然と、背筋が伸びた。
「なぁ、6月にやるんがちょうどえぇんやろ?」
「は?」
何が一体いいのかよくわからない。
そんなに悠長に話す時間もなく、差し迫っている焦りで徐々に顔をしかめていくのが分かる。
それに気づいたのか、彼は少し困ったような、照れくさいような笑みを浮かべた。
「お披露目ちゅうのは間に合わんけど、まぁ、お前さえよければ」
「?」
「籍、入れへんか?」
「え……ちょっと!?」
「うっわぁ! お前、あの花みたいに真っ赤やないか!」
「かわえぇなぁ!」ってヘラヘラしながら人の頬を指先でつついてくる。
何を言われたのか、何を今されてるのかさっぱり分からずてんぱったままその場に立ち尽くす。
「まぁとりあえず、上司に苗字変りますぅって報告しとってな」
「いや、そんな、」
ぽんぽん話が先へ行くものだから、どうしていいかわからない。
「……いやか?」
「っ!?」
しゅんと肩落として、じっとこちらを見つめてくる。
なんなんだ、このカワイイ小動物は。
「いや、あの……」
「ん?」
「その、えっと……」
「うん」
「不束者ですが、よろしくおねがいしま、す?」
「何で語尾あがんねん。疑問系とか俺泣くわぁ」
とは言いつつも、顔は心底嬉しそうに笑っていている。
「帰りに、ジュエリーショップ行くか?」
「わっ、何だか実感湧いてきた」
「現金なやっちゃなぁ」
無邪気なやりとりが嬉しくて笑みを浮かべると、彼が口元を押さえてそっぽを向いた。
「な、何……どうしたの?」
「アカン、なんかじわじわ来た」
「じわじわって……何が?」
「いや、何か改めて考えると、ごっつハズいわ」
彼の耳が一気に赤くなり、つられてこっちまで顔が赤くなってしまう。
「いや、そんな言われると……私だって……」
「どないしよ……お前俺の嫁なるんよな」
「そ、そうだよ……」
「ふりふりエプロンの新妻……」
「き、着ないよそんなエプロン!!」
「なんでーな!!」
「きゃっ!?」
彼が喚きながら後ろから抱き着いてくる。
その力強さに驚いてしまったけど。
「幸せにするから」
「私も……一緒に幸せになろうね」
彼の温もりに嬉しさで涙が溢れた。
Happy Wedding!